コスプレイヤーや同人作家は減っている?~二次元オタクの創作活動とこれからを考える~

業界ニュース

アニメや漫画、ゲームなどの「二次元」コンテンツを好む人たちが、その作品への愛情を表現する活動というと、コスプレや同人誌を制作する同人活動を連想する方も多いでしょう。

現在、テレビでもそういった活動が取り上げられるようになりました。コスプレイベントなどの様子が放送されたときには、好きなキャラクターになりきったコスプレイヤーの姿があり、コミックマーケット(コミケ)の様子が映されれば、愛してやまないキャラクターのストーリーを自ら想像してかきあげた漫画や小説を、本(同人誌)にして頒布している人がたくさんいます。

アニメや漫画などが世界から注目され、「オタク文化」や「オタク」であることへの印象が明るいものに変わったことで、こうしてメディアに取り上げられたり、二次元のコンテンツを楽しむ人が増えたりしています。しかし、TwitterなどをはじめとしたSNSで、二次元系のコンテンツを好むオタクの様子・していることを見てみると、コスプレをするコスプレイヤーや、同人活動をする同人作家はあまりおらず、減少しているように思えます。

アニメや漫画、ゲームを好む二次元オタク自体の数は増えているのに、なぜコスプレイヤーや同人作家は減っているのでしょうか?今回は、そんなコスプレイヤーと同人作家が減少した理由を考察するとともに、将来について考えていきます。

コスプレイヤー・同人作家はなぜ減った?

理由①物価の高騰

コスプレイヤー

キャラクターになりきるうえで欠かせない衣装やウィッグ(かつら)などは、コスプレ専門店以外のほか、様々なECサイトで比較的安価なものが購入できるようになりました。しかし、クオリティを求めるとなると、衣装やウィッグは高価なものになります。

販売されているものよりこだわりを詰め込みたい場合や、衣装などが販売されていない場合は、自分で作るしかありません。そうなると、手芸店で布を買ったり、ホームセンターなどで資材を集めたりと、材料費がかかることになるのです。

また、コスプレは撮影して楽しむことが醍醐味です。コスプレのイベントに参加するのであればイベント代、スタジオで撮影するならスタジオ代などがかかります。こちらも値上げの影響を受けているケースがあり、コスプレイヤーにとって難しい状況になっています。

同人作家

同人活動は、自分でかいた漫画や小説を製本した「同人誌」を出します。同人誌は専門の印刷会社に依頼して印刷・製本してもらうのですが、印刷代が値上げの影響を受けています。

また、同人誌をより魅力的にするために箔押しなどの加工をしてもらうと、さらに費用がかかることになります。

そもそも、同人誌の内容は同人作家のオリジナル作品ではなく、既存の作品に登場するキャラクターのストーリーを想像したパロディ・「二次創作」であるケースが大半で、「グレーゾーンの存在であるため収益を出すことは許されない」という暗黙のルールがあります。そこに値上げの問題が加わると、同人活動をする人の金銭的状況はかなり厳しくなります。

共通点

また、コスプレと同人活動の2つは、日本社会における賃金の問題も少なからず影響を受けているように思えます。全体的な賃金が上がらないため、同人活動・コスプレのように高額な費用がかかる趣味に挑戦するハードルが高まったり、やっていても続けていく難しさを感じていたりするケースもあります。

理由②新型コロナウイルスの影響


新型コロナウイルスは、同人作家やコスプレイヤーの活動にも大きな影響を与えました。

いわゆる「3密」を避けることの呼びかけや緊急事態宣言、自粛などによって、多くのコスプレイヤーが集まるコスプレイベントや、仲間内で楽しむスタジオでの撮影会の機会が失われたり、同人作家が自分の作品を手に取ってもらえる機会であったコミックマーケット(コミケ)をはじめとした同人誌即売会(同人誌を頒布するイベント)が開催されなくなりました。

そうした期間が長く続いたことで、コスプレや同人活動に対する意欲を失ってしまったり、挑戦しようと思っていたものの、チャンスを失ってしまった人もいます。もちろん、そんな中でも楽しみ方を模索している人も見受けられました。コスプレイヤーは自宅でコスプレをして撮影する「宅コス」を楽しみ、同人作家は「PictSQUARE」などのサービスを利用してオンライン上で同人誌即売会の開催をするなど、それぞれ大好きな趣味を続けようと頑張っていました。

しかし、実際に会って写真を撮る喜びや、コミックマーケットなどの大規模な同人誌即売会の雰囲気などはオンラインでは味わえないもので、なかなか思うように活動できず心苦しい思いをしていたのも事実です。

現在は社会全体としてもコロナウイルスが流行する前の状態に戻ってきたため、コスプレイベントや同人誌即売会も復活してきました。ただ、実際に会って写真を撮影することに抵抗があるコスプレイヤーや、同人誌即売会の会場に行きづらいという同人作家もいます。

理由③敷居が高いと感じられている


コスプレイヤー

メイクの研究・ボディメイクなども、コスプレをする準備段階のひとつと考えられます。コスプレは自分自身がキャラクターになりきるものであるため、容姿の悩みがあるとなかなかコスプレに挑戦しようと思えないこともあります。スマホなどでも加工ができるようになっているとはいえ、これは大きな課題なのではないでしょうか。

また、コスプレイヤーは数年前まで趣味として楽しまれているものでしたが、今はコスプレイヤーが企業のモデルとして活躍する場面もみられます。コスプレイヤーの在り方の多様化も、少なからずコスプレ自体の敷居の高さを感じさせているように感じます。

さらに、先程述べた費用の問題もあり、こだわるほどキャラクター1人のコスプレを完成させるのに費用がかかることも理由として挙げられます。

同人作家

10年ほど前は、自分でかいた漫画や小説をコピー機で印刷し、ホチキスで閉じて製本した「コピー本」を頒布する人も見かけました。今は同人誌の印刷を少部数から行ってくれる印刷所が増えて、そこに印刷や加工を依頼して作る「オフセット本」が主流となり、よりハイクオリティな同人誌が増えてきました。

スマートフォンやタブレットでも手軽に漫画やイラストが描けるアプリが誕生したり、いつでも小説を書くことができるようになった半面、求められるクオリティは自然と高まっていると感じてしまう人が多く、なかなか同人活動ができない状況になりがちです。また、印刷所での印刷は決して安価ではないため、利益を求めてはいけない同人活動は金銭的に厳しいと思われがちです。

理由④手軽に楽しめる「推し活」「課金」

こちらは、コスプレイヤーと同人活動をする人、両者の減少に対しての考察です。

作品やキャラクターを愛する気持ちを表現するのは、コスプレや同人活動だけではありません。それが、今話題となっている「推し活」です。「推し活」は、好きなキャラクターのグッズを集めて写真を撮ったり、グッズと一緒にお出かけしたり、ライブやイベントに行ったりすることを指します。(2023年5月現在ですと、『ブルーロック』『東京リベンジャーズ』『あんさんぶるスターズ!!』などのキャラクターが人気です)

コスプレや同人活動に比べると安価であり、メディアに取り上げられたり、SNSで観る頻度も増えてきました。作品やキャラクターを愛する気持ちを表現する方法にも流行があり、今は「推し活」のほうが大きな流行となっているようです。

また、コンビニなどで販売されているプリペイドカードを使ったGoogle PlayやApp Store(iPhoneのアプリストア)でのスマホゲームの課金もスタンダードとなりました。特に中高生は、ハードルが高い同人活動・コスプレよりもハードルが低いスマホゲームへの課金を重視し、他のことへお金を使わない傾向にあります。

こうした「推し活」「課金」に集中する人が多いことを考えると、コスプレや同人活動をしている人が「減っている」というより、「少なく見えている」とも考えられそうです。

理由⑤二次元オタクの年齢の問題

今は小学生でもスマホを持つ時代です。数年前より幅広い年代の人が、Amazon Prime Video、dアニメストアなどの配信アプリでアニメを観たり、漫画アプリで漫画を読んだり、スマホゲームで人気のゲームをプレイしたりと、たくさんの作品に出会い、二次元オタクになる人も増えてきました。

しかし、小学生~高校生にとっては、コスプレや同人活動といった、かなり費用のかかる趣味は難しいものです。

さらに、コスプレイヤーが数人で集まって撮影会をする「併せ」の参加条件にも「(金銭的に)自立している人」というものが挙げられていたり、数多くある同人誌即売会もそれぞれルールがあり、同人誌を頒布する「サークル参加」をするのに年齢制限が設けられていたりします。

誰でも手軽に作品を楽しむことができるようになっているものの、コスプレや同人活動といった創作活動に挑戦するには年齢の壁が大きく、低年齢化してきて人口が増えている二次元オタク全体の母数に対し、実際にコスプレや同人活動をしている人はわずかだという状況になっています。

また、新しくコスプレや同人活動をする人が増えないことには、少子化問題も関わってきます。それぞれの活動をするのにも体力が必要ですし、コスプレは年を取るとともに自分の容姿が変わっていくことを理由に、ある程度の年齢に達したら引退する人もいます。また、ライフイベントや様々な理由によって、コスプレ・同人活動を辞めざるを得なくなる人もいるでしょう。

そうして現役のコスプレイヤーや同人作家が引退した後に、新しく活動をしたいという人が現れなければ、コスプレや同人活動といった文化も衰退してしまいます。ここで少子高齢化が進み、より若い世代が減少していくことを考えると、コスプレや同人活動の世界での世代交代・若手の参入に課題を感じます。

大切な文化・コスプレや同人活動を存続させていくために…


今回は、コスプレイヤーと同人作家がなぜ減ったのかというテーマで記事を執筆させていただきました。「値上げ」「新型コロナウイルスの影響」「敷居の高さ」「推し活ブーム」「二次元オタクの年齢」といった5つの観点から考察しましたが、どれも現代ならではの理由だったと感じます。

コスプレも同人活動も、アニメや漫画、ゲームを愛する人たちのコミュニティの中では、大事な文化です。減っているという印象を受ける反面、元気に活動している人の姿も印象的です。コスプレなら、TwitterやInstagram、コスプレイヤー専門のサイトに写真をアップする人がいたり、「アニメイトガールズフェスティバル」でのコスプレ企画、「acosta!(アコスタ)」や「池袋ハロウィンコスプレフェス」などのイベントの開催、同人活動なら全国各地で開催される同人誌即売会や、コミックマーケット(コミケ)なども賑わっています。

今はSNSなどで様々な情報を入手することができますが、フォロワーや仲のいい人同士でコミュニティができてしまい、他の人から意見を聞くことに抵抗がある人もいるかもしれません。自分で調べただけでは十分な情報が得られなかったり、わかりづらいこともあります。これからコスプレや同人活動をはじめたい人へ、今コスプレや同人活動をしている人が、適切に優しくアドバイスできる環境や協力できる場所、後輩育成のシステムがあれば、よりこうした活動は盛り上がっていくでしょう。今後もコスプレや同人活動が楽しいものとして存続できることを願うばかりです。

※この記事はあくまでもコスプレ・同人活動を客観的に見たうえでの考察・感想であり、データに基づいたものではありません。

タイトルとURLをコピーしました