最近、SNSを利用しているオタク女子の間で、炎上について取り上げられていることがよく見られます。その中でも特にIPホルダーの方向性とファンのニーズの違いによる議論はよく見られます。なぜこのような議論が起こるのでしょうか。
例えば、IPホルダーはビジネス、ファンは娯楽と生産者と消費者の目的が違うということも一つの理由としてあげられます。
本記事では、IPホルダーの方向性とファンのニーズの違いによる炎上事例を例にIPホルダーが炎上を防ぐためにできることに着目して分析をしていきたいと思います。
*この記事では、主に女性向けIPの炎上を取り上げます。
*炎上というセンシティブな内容を取り上げるので、固有名詞を避けて説明します。
そもそも炎上とは?
総務省によると、「「炎上」とは、「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態」「特定の話題に関する議論の盛り上がり方が尋常ではなく、多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる」状態*1であるとしています。この記事でいう炎上は、女性向け作品に対するインターネット上の批判となります。
*1荻上チキ(2007)『ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性』
ある乙女ゲームでは、声優の採用を間違えた為に批判殺到!?
ある乙女ゲーム(ゲームAとします)は、乙女ゲームを中心とした女性向けゲームを専門に制作しているIP企業(企業Bとします)が制作したNintendo Switchのソフトです。このゲームAの声優としてとある歌い手グループ(グループCとします)のひとりを採用したことで、炎上しました。グループCのメンバーが演じたキャラクターは攻略キャラクターの一人で、その他の攻略キャラクターは本業が声優のキャストを採用していました。「歌い手は演技が下手」、「若手声優の仕事を奪っている」、「本職の声優を起用しない理由が分からない」といった意見が多く見られました。
実際に、ゲームAをGoogleで検索すると、サジェストに炎上という言葉が出てくる、Xで作品名を検索すると歌い手Cを採用したことに対する批判が多く散見されるといったことが確認されました(2024年9月15日時点)。総務省の定義の通り収まる気配が見られません。
◇歌い手とは、インターネット上で活躍している歌を歌うことを生業とする活動者のこと。
◇攻略キャラクターとは、乙女ゲームの恋愛相手のこと。一般的に複数いて、ユーザーは恋愛したいキャラクターと親密になることを目標にゲームを進める。
炎上の原因はファンの年齢の違い
画像はいらすとやより
企業Bの作品のファン層は30代以上の女性が多く、グループCのファン層は10代、20代の女性が大多数を占めていると思われます。実際に、今回の炎上ではグループCのファン層から擁護する声はほとんど見られなかったことから、企業Bの作品とグループCのファン層が違うことが予想されます。
ゲームAのリリースの発表を見た企業Bの消費者達は、本業の声優を採用しないことに疑問を感じたことがことの発端です。実際に歌い手が声優を演じた際に演技が下手だと批判された事例が過去にもあり、そんな中プロの声優の中に一人だけ歌い手を採用したことに違和感を感じたようです。この事から、統一性を持たせないならば、違和感を抱かせるので相応の理由が必要だということが学べます。
では、グループCのファンはこのゲームに興味を持たなかったのでしょうか?
基本的に、歌い手のファンはグループそのものを推しており、歌い手グループとしての活動を追うことにいっぱいいっぱいになっています。それに加え、10代~20代前半のファンには乙女ゲーム自体があまりなじみのないものだというのも興味を持たない要因のひとつだと考えられます。
本作は、あくまで乙女ゲームがメインコンテンツで歌い手グループの活動の一巻という訳ではないので、購入にいたるまでにはいかないと考えられます。メインキャラクターのキャストをを全員歌い手グループのキャラクターにして歌い手グループがこの乙女ゲームの醍醐味だということであれば、歌い手ファンの購入も増えたと予想できます。企業Bのファンも、自分たちはこの作品の客層ではないと分かるので特に言及することは無かったでしょう。中途半端に企業Bのファン層、グループCのファン層を取り入れようとしたことが炎上を起こしたと考えられます。次項でも触れますが、別々の客層をとりいれようとすれば反感を買う恐れがあります。
乙女ゲームというIPの声優の重要性
乙女ゲームは、イラスト、ストーリー、演出、声優など様々な要素で成り立っていますが、その中でも声優は重要な要素のひとつです。乙女ゲームで最重要である攻略キャラクターの声をあてる(命を吹き込む)のは声優です。声優次第でキャラクターの印象は大きく変わります。音声がついてないキャラクターにキャストが発表されると話題になることも多く、声優がキャラクターにおいて大切な要素であることが伺えます。実際の例を挙げると、『わんだふるぷりきゅあ』の「大福」というキャラクターはしばらくキャスト無しでしたが『呪術廻戦』の人気キャラクター「五条悟」のキャストと同じ中村悠一さんを起用したことが発表され、本来のIPのペルソナ(3~6歳程度の女子)とは異なるオタク女子(20代の女子)の間でも話題になりました。
また、乙女ゲームの消費者は声優に詳しく、声優は購入の決め手になることもあります。今回の事例でいうと、純粋に乙女ゲームをプレイしたい企業Bの消費者達にとって、プロの声優を採用しないということは購入を断念する要因に十分なり得るということです。したがって、乙女ゲームを制作するIPホルダーは声優の採用については慎重に考えるべき事項だといえます。
歌い手を採用する時の注意点
歌い手という存在は度々炎上し、特に30代以上の消費者層に良く思われていないことが多いです。その理由は「カバー曲が多い」、「持ち上げられすぎている」、「ファンの民度(マナーを守っている人の割合)が低い」といったことだと考えます。カバー曲を歌うこと自体問題のあることではありません。しかし、カバー曲が有名になるあまり原曲の再生数が少なくなり、その結果カバー曲がオリジナルだと思う人が多くなるということに原作のファンは不快に思っていることがあります。特に年齢層が高いオタクは、原作あってこそという意識が大きく「人の作品を借りて有名になった歌い手は持ち上げられすぎている」という認識をもっていることが多いです。
また、歌い手のファンは民度が低く、それ以外のオタクから嫌煙されている傾向にあります。その理由として、中学~高校生程度のファンが多いため、インターネットの常識や適切な振る舞いを知らないことがあります。更に、熱狂的なファンが多くファンの暴走が度々見られます。例えば、ファンによる歌い手の盗撮、コメント欄の言い争い、鳩行為、チケットの高額転売等が挙げられます。こういった理由から、歌い手を採用すること自体ハイリスクなのです。もちろん、歌い手は、熱狂的なファンが多いことから歌い手というIP自体に大きな力をもっていることは間違いありません。IPホルダーは、流行っているからといって安易に採用するのは危険だということを念頭に置くのが大切だと考えられます。
今回の例でいうと、企業Bのファン層からみたら多くのベテラン声優がいる中で歌い手を採用したことは、「自分たちは歌い手のファンなんかと一緒にしないで欲しい。」という感情になり批判に繋がったと考えられます。オタクはSNSを頻繁に利用しているので、自分の興味あるIP以外のファンの情報もよく知っています。つまり、いくつかのファン層を取り込む際は、そのファン層の関係性も考慮する必要があります。下手に別々の客層をとりいれようとすれば反感を買う恐れがあるということです。
◇鳩行為とは、STUDIOTOKIによると、「Aという配信者が別の配信者であるBに対して「あいつ〇〇なんだよね~」と発言した際、そのAのリスナーがBの配信枠に出向いて「Aが〇〇言っていたよ」と伝えること。この行為こそが伝書鳩であり「鳩行為」と呼ばれるものです。」と説明されています。簡単に言うと「ちくる」ことで、配信者やそのファンに嫌われる行為のひとつです。
◇民度とは、ファンの振る舞いやマナーの水準で、ファンの品性のこと。
本事例を通してIP企業ができること
▶採用するIPには十分留意すること
▶ファン層(消費者)について深く調査すること
が特に大事なことだと考えます。
ある乙女ゲームは宣伝方法を間違えたことにより炎上した
ある乙女ゲーム(ゲームDとします)は、乙女ゲームの中でも特に有名で特に20代後半以上の女性に人気な作品です。このゲームは男性アイドルと主人公が恋愛をするゲームで、ライブやDVDなどの音楽コンテンツも多く展開しています。このゲームDは他の乙女ゲームとは異なり、ぬい活、ライブ参加、創作活動等活発に親しまれています。一見すると多くの人に愛されており、炎上する要素が少ないように思えますが、IPホルダーの宣伝方法の問題により、消費者に混乱をもたらしてしまったために炎上してしまいました。
◇ぬい活・・・animate Timesによると、「「ぬい活」とは、推しのぬい(ぬいぐるみ)を自分好みにカスタマイズしたり、撮影したりすること。」とされています。推し活の一つです。
〇炎上の経緯
2023年4月1日、エイプリルフールというタイミングで女性アイドル版のゲームDのプロジェクト(プロジェクトEとします)がXで発表されました。しかし、このプロジェクトは嘘ではなかったのです。*このエイプリルフールに公式の正式発表をしたことが一つ目の混乱を招きました。更に、このプロジェクトタイトルが既存のゲームDの劇中劇シリーズのタイトル(タイトルGとする)を使用したことが大きな問題となりました。このタイトルは、2011年の4月1日に発表されて以来、長い間続いてきた看板シリーズです。プロジェクトEとこのタイトルは全くの無関係だったこともあり、混乱と炎上を引き起こしました。
*女性向けIPはエイプリルフールに噓の企画の発表・エイプリルフール当日のみのジョーク企画をしてファンを楽しませる傾向にあるのが特徴です。
IPホルダーは公式発表の情報に注意し、整合を図る必要がある。
一番の問題点は、長年親しまれており消費者に定着しているタイトルを被せたことで消費者に混乱を招いたことであると考えます。そのタイトルを用いたら当然その消費者はタイトルGの関連発表だと楽しみにするはずです。古参のファンであればなおさらです。ファンにとってはその中でまったく関係ないものでしたら残念に思いますし、タイトルのブランドを借りて注目を集めるという悪質な行為としか思えません。
では、IPホルダー側はどうすればよかったのでしょうか。タイトルを被せないことが一番の対策です。タイトルGを使用するのであれば、既存の作品との関係性を明確にしてファンに分かってもらうことです。制作サイドの方でいくら辻褄が合っていてもファンは公式からの発表しか情報がありません。制作サイドは公式に発表したものを整理してその情報のみを受け取った場合に整合性がとれているのかを確認する必要があると考えます。当たり前に思えますが、長い歴史のある作品の過程を並べると不整合なことはよく見られる事例です。整合を図るのが難しい場合どう対処するのかがIPホルダーの腕の見せ所だと考えます。
この事例から読み取れること
この事例では、情報の混乱が炎上の原因でした。IPホルダーは消費者がどのように受け取るのかを消費者側に立って常に考える必要があります。
まとめ
本記事では、二つのケースを例に炎上について考察してきました。
いずれの事例も、IPホルダーのファン層の把握不足と消費者目線に立てなかったことが原因で炎上が起こってしまいました。年齢、性別といったファン層を理解し、消費者がどう受け取るのかを整理することをすれば若い年齢層などの新たな層を取り入れることができると考えます。
炎上というのは感情的な側面が多く、いくらIPホルダーが気を付けても簡単に防ぐことができるものではありません。しかし、より多くの事例から学び、なぜ炎上が起こったのか今一度調査、分析してみることで防げた炎上もあると推察されます。引き続き合同会社Space-Jはより多くの事例を収集し、多角的な視点で分析を進めて行きたいと思います!
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