推し活としても人気の「聖地巡礼」を考える~JR東海とTVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のコラボからみる社会~

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アニメや漫画、ゲームなどのモデルになった場所や、作中で実際に登場した場所を巡る「聖地巡礼」。皆さんも、一度は耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。「聖地巡礼」は、2020年頃からの「推し活」ブームの影響を受け、好きなキャラクターや作品などを応援する活動の一環として、より盛んに行われているように感じられます。

しかし「聖地巡礼」の概念は、作品に縁のある地を訪れる活動として1980年代頃からあったとされています。それから2010年代後半頃にはアニメや漫画、ゲームが社会的・世界的に人気となり、そうした(2次元の)コンテンツを好む「オタク」たちの印象もポジティブなものに変化しました。そして様々な企業や団体が「聖地巡礼」のために、作品とコラボするようになり、今に至るのです。

「聖地巡礼」は、推し活の起源と言っても過言ではなく、企業や団体とコラボし、大きなスケールで行われているものも目立ちます。また、経済効果をはじめとし、社会にも影響をもたらせる一面もあるのです。そこで本記事では、「推し旅」と題して「聖地巡礼」にまつわる企画を多数行っているJR東海と、TVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のコラボを通し、「聖地巡礼」の人気、さらには「聖地巡礼」と社会についての関連についても考えていきます。

参考

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』とは

PR TIMESより(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001571.000016719.html)

原作は渡航(イラスト:ぽんかん⑧)が手掛けるライトノベルで、2011年より小学館から出版されています。主に『俺ガイル』という通称で親しまれ、TVアニメが2013年〜2020年にかけて放送された他、PlayStationVitaやNintendo Switchでのゲーム化もされるなど、幅広い展開がなされている作品です。物語の主人公は友達の少ない男子高校生で、友達を作ることを諦めつつも個性豊かな女子を中心としたキャラクターと関わることになる、学園ラブコメディとなっています。

作品は既に完結しているものの、新プロジェクト『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。結』が発表されました。2021年より新たにライトノベルが刊行されており、まだまだ勢いのある作品と考えられます。

ファン層としては、主に20代半ば〜の男性が多い印象ですが、物語やキャラクターのデザインなどに魅了された女性ファンも多くいます。現在ライトノベル原作のアニメがブームであること、長く続いているコンテンツだからこそ、多くの人に愛されているようです。

JR東海とTVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(略称『俺ガイル』)のコラボについて

JR東海とTVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のコラボは、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。旅 in 京都」と題し、2023年9月〜11月にかけて行われました。

TVアニメ放送10周年を記念した企画となり、作中でキャラクターが修学旅行として訪れた京都へ、東海道新幹線を利用して行くことができます。オリジナルのグッズをはじめとし、アニメのストーリーを思い起こしながら旅を楽しめる内容が多数用意されました。

具体的な企画

コラボを意識したグッズ

作中でキャラクターが訪れた場所などを掲載した「旅のしおり」のほか、アクリルスタンド引換券(電子クーポン)が登場しました。いずれもキャラクターがJR東海の車掌やパーサーの制服を着たイラストが用いられており、コラボを意識した特別仕様になっています。

限定ボイス

スマートフォンでQRコードを読み込むと、走行中の東海道新幹線車内で楽しめるボイスを聞くことができます。

特別なプラン

「JR+宿泊プラン」「日帰りプラン」といった2種類のプランが登場し、より『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の聖地巡礼を楽しむことができます。

社会・経済的な反響

JR東海では、2017年より、アニメやゲームなどの作品とコラボし、オリジナルグッズの販売や聖地巡礼などのキャンペーンを行う「推し旅」の取り組みをしています。

「推し旅」の取り組みが始まった2017年は、静岡県とJR東海との間で勃発したリニア中央新幹線の問題が報じられたのと同時期にありました。リニア中央新幹線の問題としては、静岡県区でのトンネル工事による生態系の破壊などが懸念されていたほか、リニア開通による電力、騒音の影響などが挙げられます。

しかしながら、2023年現在、未だに静岡県が静岡県区でのリニア中央新幹線の工事着工を認めず、この問題は膠着状態にあります。

JR東海としては、リニア中央新幹線は老朽化が進む東海道新幹線のバックアップ路線という位置づけでもあり、まさにJR東海の社運をかけたプロジェクトのため、なんとしてでもリニア中央新幹線の開通は必須です。

そうした中でのアニメ作品などとのコラボの開催は、JR東海の悲願であるリニア中央新幹線開業へ目指したJR東海へのイメージアップや、世論を味方につけることに繋がったのではないかと考えられます。

また、JR東海は、新型コロナウイルスの拡大後、Web会議やリモートワークの浸透に伴う東海道新幹線へのビジネス需要の低下から、今後はアニメなどとのコラボレーションやインターネット予約サービス「スマートEX」などを通じて、東海道新幹線を利用した観光・エンタメ需要に力を入れていきたいという意向があるようです。

「推し旅」では、今回取り上げた『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の他にも、『あんさんぶるスターズ!!』『五等分の花嫁』『ホロライブ』ともコラボ企画を開催しました。今後はより多くのZ世代・女性に人気の作品とコラボしていくことが予想され、JR東海の観光・エンタメ分野への展開にも注目が高まります。

活気あふれる「聖地巡礼」

推し活ブームが始まる前から、アニメや漫画、ゲームが好きな2次元オタクの間で定着していた「聖地巡礼」。近年は企業や団体の協力によりますますスケールアップし、多くのファンを虜にしていると考えられます。

「聖地巡礼」は、地域や社会に貢献したり、企業や団体のイメージアップに繋げたりする役割も持ち、人気の作品とコラボすることによってさらにその効果が期待できます。

しかし、今回取り上げたリニア中央新幹線のような地域の事情のほか、近年の世界情勢や物価高の影響といった課題があります。それにより、コラボを行う企業や団体側にも、コラボを楽しみたいファン側にも、コスト等ハードルが高いと感じる要素が出てきてしまうことは否定できません。

そのため、地域、経済、社会の情報はもちろんのこと、ゲームやアニメ、漫画などを好む2次元オタクのブームをしっかりと把握し、企画やPRをしていくことが重要です。また、実際に聖地巡礼を行う土地を訪れたり作品に触れたりすることも、よりよい「聖地巡礼」の企画作りに繋がります。

企業や団体の思い、地域の魅力、そして2次元オタクのパワーも感じられる「聖地巡礼」。様々な要素が絡み合う企画だからこそ課題も多々ありますが、今後も勢いを増していき、需要が高まっていくことが見込まれます。

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