2020年頃からブームとなってきた「推し活」。アイドル、俳優、ゲームやアニメ、漫画のキャラクターなど、様々な「推し」を応援し、楽しむ女性が増えています。
最近は企業も「推し活」と題して様々な施策を行ったり、商品を販売したりと、社会的にも「推し活」ブームが巻き起こっています。
だからこそ、ネットやテレビなどのメディアを見ていても、「『推し活』は全国的に流行しているはず!」と思っている方も多いでしょう。しかし、これまでSpace-Jが各地(青森、秋田、福島、仙台、名古屋、東京・池袋や首都圏各地、大阪、神戸)でアニメ・漫画・ゲームなど2次元コンテンツを好む女性の動向について調べてきた結果、意外なことが見えてきたのです。
それは、「『推し活』は関東で流行しているものであり、関西ではあまり『推し活』に力を入れていないように感じる」ということです。さらに「関西では同人誌制作やコスプレなどの『創作活動』に力を入れているように見える」ということもわかってきました。
今や「推し活」はトレンドの中心と考えられてきましたが、なぜ関東中心の文化となっているのでしょうか?また、関西で創作活動に熱中する方が多いのは、何が理由なのでしょうか?
まだまだ調査途中ではありますが、2024年8月現在でのSpace-Jの見解・考察をお伝えします。
「推し活」「創作活動」についての用語解説
まずはじめに、この記事での用語を解説します。
- 推し活…アニメや漫画・ゲームなど2次元コンテンツのイベント、ライブ、ポップアップストア、コラボカフェなどに行くことを指します。グッズを集めたり、缶バッジなどのグッズで飾り付けたバッグ「痛バッグ」を作ったりすることも含みます。
※他にも「推し活」は様々な方法がありますが、この記事では比較をするため、上記のものを「推し活」とします。
- 同人誌…自費出版で制作する漫画や小説の本のことです。ここではアニメや漫画・ゲームなど2次元コンテンツを好む女性が、好きなキャラクターを描いたものを指します。
- 同人活動…同人誌を制作したり、同人誌即売会で同人誌を頒布したりすることを指します。
- 創作活動…前述した「同人誌」の制作やコスプレなど、作って楽しむファン活動全般を指します。
※広義では「創作活動」も「推し活」に含まれるかもしれませんが、この記事では比較をするため「推し活」とは別のものとして考えます。
「推し活」は関東中心、開催地も関東が多い傾向
大好きな作品のイベントやライブに行ったり、グッズを集めたり…。2020年頃から、好きなキャラクターなどを応援する・愛でる「推し活」が流行しています。「グッズを持って出かければそれはもう『推し活』!」と考える方も多いですが、アニメや漫画・ゲームなど2次元コンテンツでは、公式でイベントやコラボが大きな盛り上がりを見せます。
まずは「推し活」の場として重宝される、IPとのコラボで有名な店舗の事例を見ていきましょう。
大手IPコラボ専門カフェ
IPコラボ専門カフェでは、常時様々なIPとのコラボが行われています。IPの世界観やキャラクターをイメージしたメニューが楽しめるため、「推し活」にぴったりな場所です。
店舗は東京に3店舗(いずれも池袋)、大阪に2店舗(天王寺、大阪日本橋に各1店舗)です(テイクアウト専門店を除く)。開催期間は東京も大阪も同時期であるため、ほぼ格差はないといってよいでしょう。
一方テイクアウト専門店は地方でも開催されていますが、IPにより開催場所の違いがあり、やや関東が多めのようです。
スイーツ食べ放題レストラン
若年層を中心に人気のスイーツ食べ放題レストランも、積極的にIPとのコラボを行っています。
開催店舗数はIPや会期によります。例として、VTuberとのコラボは関東5店舗(新宿、町田、横浜、埼玉、千葉)、関西は2店舗(大阪、京都)となっていました。関西2店舗のみの開催のため、貴重な機会を諦めてしまうファンも多いと推測できます。
カラオケ店舗
数あるカラオケ店の中でも、高校生の室料無料などで人気の店舗です。こちらもアニメや漫画、ゲームに加え、動画サイトなどで活躍する「配信者」・近年知名度を上げてきた「VTuber」(バーチャルYouTuber)とのコラボを行っています。
コラボ内容としてコラボドリンク・コラボグッズの販売、歌唱キャンペーン、コラボルームの展開が全国で行われていますが、コラボルームがある店舗は限られています。VTuberユニットのコラボルームは関東2店舗(東京、横浜)、関西は1店舗(大阪)となっていました。
全国で展開されているカラオケチェーンでの施策のため、コラボルームでなくてもドリンクやグッズ、キャンペーンで楽しむことが可能です。しかし、コラボルームの開催店舗は限られており、「コラボルームで推しと写真を撮りたい」「推しのイラストがあしらわれた部屋にグッズを持って行き、カラオケを楽しみたい」という理想の「推し活」ができないファンもいると考えられます。
その他では…
さらに、アニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツを好む女性の「推し活」の傾向として、
- 痛バッグを持っている方は関東が多い
- 「推し活」に特化したポップアップストア(IPコラボではなく、推し活に使えるグッズを販売しているもの)も、関東が人気
- ライブ、展覧会などその他のイベントについても関東での開催がやや多め
ということも見えてきました。
関東では、東京・池袋のサンシャインシティやアニメイト池袋本店近くで「痛バッグ(画像参照、グッズで飾り付けたバッグのこと)」を持った女性を見かけたり、「推し活」と銘打った推し活向けグッズ販売店(コーナー)を見かけます。
しかし関西はIPとのコラボを行っている店舗が少ないためか、「推し活」に熱中している様子をあまり感じられません。また、東京・池袋ではイベントやIPコラボが行われていなくても「痛バッグ」を持った女性を見かけます。一方、アニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツの商品を取り扱う店舗のある大阪日本橋でも、そういったものを好む女性の姿は見受けられるものの、「痛バッグ」を持っている女性の姿はあまり見かけないのです。
神戸マルイの商業施設で行われた推し活グッズのポップアップストアも、人はやや少なめでした。
また、「推し活」に力を入れている世代はZ世代が中心ですが、「関西のZ世代はどこで推し活をしているのか」という疑問が残ります。
開催頻度は関東より少なめでも、「創作活動」に熱中する関西
「推し活」ブームの前から、アニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツを好む女性の中でよく行われてきたのが、コスプレや同人活動といった「創作活動」です。最近は「推し活」ブームの印象が強いですが、「創作活動」も好きなキャラクターへの愛情表現として、熱中する女性がいます。
特に関西はその傾向が強いように見えるので、同人誌即売会やコスプレイベントを例として、「創作活動」についても詳しく解説していきます。
同人活動
同人活動として最もポピュラーなものが、大きな展示場などを借りて同人誌を頒布するイベント「同人誌即売会」です。全国各地で行われ、毎回多くの参加者でにぎわっています。
同人誌即売会の主催として有名な出版社によるイベントは、関東も関西も同じくらいの頻度(気持ち関東が多いと捉えられる)です。なお、関東・関西ともに来場者数のデータは公表されていません。
しかし、日本橋には同人誌制作の作業ができるブースのある女性専用カフェが人気だったりと、創作活動に対し積極的な姿勢が見られます。
池袋にも同人誌制作作業ブースやコスプレの衣装を作るミシンが設置されている作業スペースがありましたが、池袋から上板橋に移転したのち、2024年3月に閉店しています。
また、神戸にあるアニメや漫画、ゲーム等2次元コンテンツのグッズ・同人誌の買取販売を行う駿河屋では、店の前にも同人誌が入ったかごがたくさん置いてありました。さらに、同人誌・グッズ買取等で有名ならしんばんも人気が高く、商業BL(個人制作ではなく出版社から出ているボーイズラブ漫画)や同人誌を多く取り扱う専門店・ハニーハートがあることも大きな特徴です。
一方、横浜のらしんばんは同人誌よりグッズの品揃えが豊富で、「痛バッグ」を作る方向けになっており、IPもZ世代に人気のものが多めでした。神戸に比べるとかなり同人誌の取り扱いが少なかったため、「推し活」に力を入れる方向けの店舗だということが分かります。
同人活動は2020年頃の推し活ブーム前から、アニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツを好む女性たちの間で盛んに行われてきました。現在はサブスクリプションで手軽にアニメを見られるようになったほか、スマホゲームの登場などで、創作をするより視聴・ゲームのプレイに集中する女性が多いように感じられます。また、若年層の特性であるタイムパフォーマンスの重視の影響のためか、手間のかかる同人誌制作などはあまり好まれない傾向にあり、同人活動の人口が減少しているようにも感じられます。
そんな中でも関西では同人誌制作を応援しようという風潮があるように感じられ、同人誌買取店の人気、さらにはBL漫画専門店の存在など、同人活動をする方・同人誌が好きな方にとって魅力がある場所が多いことが分かります。
コスプレ
「アニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツのファンが何かを作って楽しむ」といえば、コスプレを連想する方も多いでしょう。
2024年8月2日現在で、8月に開催されるコスプレイベントは関東31件、関西は18件となっており、関西がかなり少なめです(コスプレイヤーズアーカイブイベント欄調べ。ユーザーが登録したイベントのみとなるので、他にも開催されている場合があります)。
その反面、関西ではコスプレウィッグ専門店が平日でもにぎわっていたり、コスプレをする方をペルソナとしたオタク向けジムが電力系通信会社のケーブルテレビや読売テレビの番組で取材され注目を浴びていたりと、コスプレへの意識・関心が高いように見えます。イベント自体は少なくても、コスプレをする仲間で集まり、コスプレ専用のスタジオで撮影を楽しんでいることも考えられるでしょう。
同人誌即売会もコスプレイベントも関東より開催が少ないですが、関西圏のアニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツを好む女性は、創作活動に力を入れているように感じます。駿河屋・らしんばん・ハニーハートの同人誌の取り扱いの多さや、コスプレ専門ショップのにぎわいは、関東ではなかなか見られない光景です。同人活動をする方やコスプレをする方は減りつつある現代ですが、こうした創作活動に興味・関心があるということは、今後関西を中心に若い世代が創作活動を盛り上げるのかもしれない、と期待ができます。関西の創作活動人気の理由を探りつつ、関東との違いもさらに深堀りできたらと思います。
- 関連記事「コスプレイヤーや同人作家は減っている?~二次元オタクの創作活動とこれからを考える~」https://space-j.com/oshi-lab/2023/05/29/cosplay-dojin-decrease/
金銭的な事情は関連している?
- https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/gaiyo.html(賃金構造基本統計調査(令和5年))
- https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/dl/10.pdf(賃金構造基本統計調査(令和5年))
令和5年の賃金構造基本統計調査で都道府県別の平均月収を見ると、東京は36万8,500円、大阪は34万円となっています。
賃金格差はそれほど大きくないため、関西在住のアニメ・漫画・ゲームなど2次元コンテンツを好む女性が「推し活をする余裕がない」「金銭的な理由でライブに行くのが難しい」「遠征ができない」という理由はあまり考えられないようにも思えます。
これを踏まえると、「『推し活』にお金を使う」のか、「『創作活動』にお金を使う」のか、というパターンに分かれる(または両方していても比重が異なるケース)ことが推測されます。
また、地方の賃金を見てみると、青森は24万9900円、福島は27万9400円、鳥取は25万8300円、福岡は29万7300円となっており、東京や大阪に比べるとかなり差があります。地方では「推し活」も「創作活動」も厳しいように感じられますが、その中でも必死に好きなキャラクターへの愛を表現しているのが現状です。地方での「推し活」「創作活動」事情も、今後探っていく必要がありそうです。
関東は「推し活」、関西は「創作活動」…まだまだ調査が必要!
今回はアニメや漫画、ゲームなど2次元コンテンツを好む女性の「推し活(イベントやライブ等への参加)」、「創作活動(同人誌制作、コスプレ)」に着目し、関東と関西でどのような違いがあるのか見ていきました。
「関東では推し活がメインで、関西では創作活動がメイン」というひとつの答えが見えてきたのではないでしょうか。
しかし、冒頭でも述べたように、Space-Jはまだまだアニメ・漫画・ゲームなど2次元コンテンツを好む女性の動向について調査中です。なぜ関東はイベントやライブなどに参加する「推し活」がメインで、関西は同人誌制作やコスプレなどの「創作活動」が好まれているのか、明確な理由は判明していません。
今後も情報収集を続け、Space-Jとしての考察を「オタク女子推しラボ」にて掲載していきたいと思います。