スマホ、YouTube、「dアニメストア」や「Amazon Prime Video」といった動画サブスクリプションサービスの普及により、アニメやゲーム、漫画が日本全国どこでも共通して楽しめる時代になりました。特に2010年代後半から流行している、好きなキャラクターなどを応援する「推し活」ブームもあり、地方もアニメや漫画、ゲームが好きなオタクに向けて変化を遂げています。
現在は、地方と都心でオタクのトレンド(人気のIP、推し活の方法)が大きく変わることはありません。しかし、地方には地方の特色・工夫があるのです。今回は仙台の「オタクビル」と呼ばれる商業施設・EBeanS(イービーンズ)と、福島のコスプレイベント・ふくしま街コスをピックアップし、都内と地方で共通しているトレンド、地方のオタクの動向について説明します。
実際に足を運んで執筆した内容となっていますので、オタクによる地方創生・地方でのIP施策をお考えの際は、お役に立てれば幸いです。
仙台の「オタクビル」EBeanS
EBeanS(イービーンズ)は、仙台駅前にある商業施設です。地元企業のエンドーチェーンが運営しており、地元の人からは「イービン」という愛称で親しまれています。地下1階~9階の10階建てで、アニメや漫画、ゲームなどが好きなオタクにとって注目の店舗が多くあることが特徴です。そのため、「オタクビル」と言われることもあるようです。
また、コスプレイベントのほか様々なアーティストのイベントも開催しており、「エンターテインメントの聖地」とされています。
EBeanSのオタク向け店舗一覧
- GACHA GACHA CLUB(カプセルトイ専門店)
- ソフマップ(パソコン等新品・中古・買取・サポート点)
- むにゅぐるみパティオ(サンリオのグッズを取り扱うバラエティショップ)
- ホビーステーション(トレカ買取・販売専門店)
- HMV(書籍・CD・DVD)
- GEE!STORE(キャラクターグッズ総合ショップ)
- アニメイト(キャラクターグッズ・書籍・CD・DVD・ゲームソフト・同人誌)
- PremiumShop(期間限定コラボショップ)
- ゲーマーズ(CD、PCゲーム、TVゲーム、キャラクターグッズ)
- らしんばん(キャラクターグッズ・書籍・CD・DVD・同人誌の買取・販売)
補足
アニメイト、ゲーマーズ、らしんばんは都心で多くのオタクが訪れる店舗であり、これらがひとつのビルに入っていることは、アニメや漫画、ゲームが好きなオタクにとって、とても良心的です。女性オタクが好むサンリオのグッズを取り扱うバラエティショップのほか、トレカ買取店など男性オタク向けの店舗もあり、性別・年齢問わず多くのオタクがEBeanSに足を運んでいます。
アニメイトは2015年の1月に仙台朝市からEBeanSに移転・店舗拡大していて、東北最大級のアニメイトとして愛されています。品揃えも東京の渋谷・新宿の店舗に引けをとりません。取り扱っているIPは、地方と都心でオタクのトレンドが大きく変わることはないため、全国共通です。
また、らしんばんもグッズの種類が豊富です。青森のアニメイトにらしんばん出張所が設けられているものの、EBeanSのらしんばんが東北では中古グッズの品揃えがNo.1となっています(※筆者目視による)。
さらに喜久屋書店では様々な作品のポップアップが設けられ、オタク向けの店舗ではないものの、かなりオタクにアプローチしているようでした。アパレルショップのGUもあるため、推し活の前の服を購入したりなど、ほとんどの買い物がEBeanSで済むのではないかと考えられます。
EBeanSの客層
- 全体的に客が多く、女性ももちろん多い
- 年齢は中高生、Z世代、30代前半(※筆者目視による)
- 様々なアーティストやグループのライブ・イベントが行われているため、アニメや漫画、ゲームのオタク以外も集まる
補足
女性客の中には、キャラクターのグッズをつけたバッグ「痛バッグ」を持っている方も見られました。そういった点からも、EBeanSがオタクにとって魅力的な場所であることがわかります。キャラクターグッズを取り扱うアニメイトは8割が女性客で、劇場版が公開されたばかりの『ハイキュー!!』(東北が舞台のIP)の特設コーナーには、多くの女性客が集まっていました。また、同じくキャラクターグッズを取り扱うらしんばんは、ほぼ女性客となっていました(※筆者目視による)。
また、EBeanSはアニメや漫画、ゲーム以外のオタクも集まる場所となっており、様々な「推し」がいる人にアプローチしているところも注目するべき点です。まさに東北の「エンターテイメントの聖地」となっていて、地方創成に貢献していると考えられるでしょう。
コスプレのイベントは地方でも!「ふくしま街コス」
ふくしま街コスは、福島県福島市で行われているコスプレイベントです。開催地は福島市内パセオ通り、文化通り、稲荷神社となっており、写真撮影や参加者同士での交流のほか、コスプレをしながら街を散策したり、遊んだりと、様々な楽しみ方ができます。
参加方法は、コスプレをして参加するコスプレイヤー、コスプレイヤーを撮影するカメラマン、コスプレを見て楽しむ一般参加の3形態です。また、ステージ上でダンスなどを披露するコスプレパフォーマンスも行われ、福島市では多くのコスプレ好きが集まるイベントとなっています。
2024年1月21日(日)に開催されたふくしま街コスに、実際に足を運んでみた際の情報も含め、ふくしま街コスの様子についてお伝えします。
なお、今回お写真を撮影させていただいたコスプレイヤーの方には事前に掲載許可をいただいております。
参加者について
- 全体的に女性が多い。筆者目視で8割程度。
- 年齢はコスプレイヤーが20代前半~(高校生と推測される方も)、カメラマンは20代前半~、一般参加は高校生~幅広い年代。
- コスプレしているキャラクターは『にじさんじ』『ブルーロック』『あんさんぶるスターズ!』が多かった。
- コスプレ初心者と思われる、若いコスプレイヤーも見かけた。
- 女性カメラマンの姿も見られた。
- 一般参加者の中には、キャラクターのグッズをつけたバッグ「痛バッグ」を持った方や、ぬいぐるみを持っている方もいた。
補足
東京で開催されている人気コスプレイベント・acosta!(アコスタ)と比較してもかなり人が多い印象です。その理由として、東北に在住しているコスプレイヤーが足を運びやすい点、遠征の場合でも仙台から高速バスで1,300円(1時間程度)で来ることができる場所だという点が挙げられます。筆者の目視ではコスプレイヤー、カメラマン、一般参加ともに、acosta!より参加者の年齢層が低い印象でした。
コスプレイヤーには、2024年2月時点で20代前半の女性に人気のIP・キャラクターのコスプレをしている方が多く見られました。特にここ数年で勢いを増しているVTuber事務所『にじさんじ』のキャラクターのコスプレをした方が多く、地方のコスプレイヤーもIPのトレンドに敏感だということがわかります。
また、一般参加者が持ち歩いていた「痛バッグ」は、都心の場合、アニメや漫画、ゲームのイベントの際に持ち歩くことが多いものです。ぬいぐるみを持ち歩いたりなど、好きなキャラクターをアピールすることで、そのキャラクターに扮したコスプレイヤーとの交流を図ろうとしているのかもしれません。さらに、地方ではオタクに向けたイベントの開催が少なく、実際に顔を合わせてコミュニケーションをとる機会が限られています。そのため、特別なイベントに参加する感覚で、「痛バッグ」やぬいぐるみを持ってきているという考えもありそうです。
ふくしま街コスの様子
- 今回は室内(福島駅近くの商業施設・MAXふくしま)での開催。
- 全体的に交流がメイン。
- コスプレステージでは、『にじさんじ』『ブルーロック』『あんさんぶるスターズ!』『プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク』のキャラクターのコスプレをしたコスプレイヤーがパフォーマンスを披露。
- 開催場所であるMAXふくしま内に女性更衣室を用意。長蛇の列となる。
- 一般参加の方は、コスプレを見たり、コスプレイヤーと交流をしたりして楽しんでいた。
補足
ふくしま街コスは、福島市内をコスプレしながら練り歩いたり撮影をしたり、今回お伺いした商業施設内で開催するイベントのため、自由度が高く自然と他の参加者との交流がメインになります。コスプレイヤーはコスプレ専用のスタジオ等で写真を撮影することもありますが、スタジオでの撮影はブースの譲りあい等の問題もあり個々の撮影に集中しがちなため、こうして開放的なイベントは交流にうってつけだと考えられます。
コスプレステージの参加者・観覧者はともに女性が多く、コスプレイヤーのダンスなどを楽しんでいました。さらに、コスプレを見たり、コスプレイヤーと交流して楽しむ一般参加の方もおり、充実した時間を過ごしているようでした。その背景として、地方ではオタクが実際に顔を合わせて交流する場所が限られていることが挙げられます。
また、国内最大級のコスプレ専門SNS「コスプレイヤーズアーカイブ」では、2024年2月に東北地方で開催されたコスプレイベントは5件となっており、東北で開催されているコスプレイベントが比較的少ないのが現状です(登録されているイベントのみ。関東は37件、関西は26件)。
東北地方や福島在住の方にとって、身近な場所でコスプレイベントが開催される「ふくしま街コス」は、コスプレが好きな方や同じ作品・キャラクターを好む人同士が集まり、交流ができる貴重な機会となっていることが分かります。それと同時に、コスプレを通じて地方創生に繋げるという大きな役割も果たしているのです。
地方のオタクも、都心のオタクも「好き」を求めている
今回は、仙台の「オタクビル」と呼ばれる商業施設・EBeanS(イービーンズ)と、福島のコスプレイベント・ふくしま街コスをピックアップし、都内と地方で共通しているトレンド、地方のオタクの動向について解説しました。
- 地方と都心でオタクのトレンド(人気のIP、推し活の方法)が大きく変わることはない
- 地方にもオタクが注目する店舗が集まっている場所がある
- コスプレイベントは、都心と比較しても多くの人が集まる
- 地方でオタク同士が顔を合わせて会う機会は少ない
- 地方のオタクが集まる場所では、グッズを飾ったバッグ「痛バッグ」や、ぬいぐるみを持っている方も見かける
ということがわかったと思います。
EBeanSのような都心と同じオタク向け店舗の充実や、ふくしま街コスのようなオタク向けイベントの開催は、地方のオタクがより活発になり、地域創生に繋がると考えられます。ネットを通じてオタクのトレンドに地域差がなくなり、どの地方にもオタクが存在するようになったからこそ、地方でもオタクに対するアプローチを実際に行うことが重視されているのです。
アニメや漫画、ゲームなどが好きなオタクの力は、昨今の推し活ブームも相まって、ますます強くなっていくでしょう。オタクたちの「好きなものに対する愛情」の力に着目し、施策を考えてみるのも、地方創生の手段のひとつです。
併せまして、今回の記事作成にあたってご協力いただいた関係者の方々には厚くお礼を申し上げます。
合同会社Space-Jでは、地方での女性オタク向け施策等のアドバイスも行っております。ご検討の際は、Space-Jまでご連絡ください。